人口減少下の維持管理に適する管路網強化に関する研究

本研究テーマにおける主な成果は、①アンケート調査による管路の維持管理業務の現状と改善策の整理、および②「管口径の縮径」「管路延長の短縮」を考慮した再構築プロセスの提言です。成果の詳細を以下に示します。

アンケート調査の実施・分析

アンケート調査では、全国の水道事業体で行われている管路の維持管理業務においてどの業務がどれだけ負担に感じられているかを把握し、さらに負担軽減のための改善策を自由記入欄やヒアリング調査によって整理しました。アンケート調査の成果については「New Pipesプロジェクト 成果報告書」および「水道管路の維持管理業務の現状と改善策に関する読本」にまとめています。なお、読本についてはアンケート調査結果のダイジェスト版として、より読み進めやすいものとなっています。

また、維持管理を軽減する管路網についての設問では、全体のうち7割以上の事業体で、「管路延長の短縮」と「口径の縮径」が維持管理の負担軽減に有効であるとの回答を得られました。(図1、図2)

図1-1 維持管理の負担軽減への「管路延長の短縮」の有効性 図1-2 維持管理の負担軽減への「管路延長の短縮」の有効性

図1 維持管理の負担軽減への「管路延長の短縮」の有効性

図2-1 維持管理の負担軽減への「口径の縮径」の有効性 図2-2 維持管理の負担軽減への「口径の縮径」の有効性

図2 維持管理の負担軽減への「口径の縮径」の有効性

人口減少下の維持管理に適する管網への再構築プロセスの提言

前述のアンケート結果から、「口径の縮径(ダウンサイジング)」に加えて「管路延長の短縮」を考慮した管路更新を進めることが維持管理業務の負担軽減の有効策の1つと考え、これを「管網のスリム化」と称して以下のように定義しました。

【管網のスリム化】

管路更新を含む管路の維持管理の負担軽減を目的とし、配水や給水に支障のない範囲で管路のネットワーク構造を見直し、配水管路の短縮や縮径を図ること。

本研究では、「管網のスリム化」の実現可能性をシミュレーション及び現地計測によって確認しました。

❶ 実管路簡略化モデルを用いた管網のスリム化シミュレーション

まず、短縮の対象管路の選定方法について事業体委員と協議し、「給水施設と消火栓が設置されていないこと」を条件とした上、以下のケース1~5を仮定しました。(図3参照)


ケース1)
背骨となる管路から管網に向かう管路
ケース2)
管網内の管路
ケース3)
給水箇所が少なく、節点間が繋っていなくてもよい管路
ケース4)
ブロック外周の管路
ケース5)
空家が存在している管路


図3 短縮の対象管路

図3 短縮の対象管路

これらの対象管路を含む支線のない配水本管で構築した実管路を簡略化したモデル(以下、簡略化モデル)を作成し、シミュレーションを実施しました。(図4、図5)
なお、シミュレーションの主な条件として「更新サイクルを60年」「水圧を0.2 MPa以上」「残留塩素濃度を0.2~0.5 mg/L(配水管レベル)」「消火用水量を同時2栓開栓時に1栓あたり1 m3/min以上」を設定しました。


図4 実管路簡略化モデル

図4 実管路簡略化モデル

図5 短縮の対象管路(実管路簡略化モデル)

図5 短縮の対象管路(実管路簡略化モデル)

結果、管網のスリム化の工事の費用抑制効果は大きく、一方で、管内容積及び平均口径は管路の短縮を行わずにダウンサイジングのみに比べ、スリム化手法で更新した方が大きくなることが確認されました。また、流速及び残留塩素濃度は工事前後で大きな差は見られず、問題がないことを確認しました。(表1、表2)

表1

表1

表2

表2

❷ 現地計測によるスリム化の影響の検証

簡略化モデルによるシミュレーションにおいて、①では1パターンの管網を対象に検証を行いましたが、管路の短縮を実際に行った現場において水圧調査を行い、管網のスリム化の影響を検証しました。
本調査では管網の種類や管路の短縮、口径の縮径を考慮して調査現場を選定し、更新前後の水圧を計測しました。
調査現場は以下のとおりA現場~C現場の3現場としました。
・【A現場】【B現場】:ループ状の管路を切断して樹枝状管路に変更し、樹枝状部の口径を縮径することで管路内の滞留を軽減」を図った現場
・【C現場】:「2条配管部を1条に変更し管路延長を短縮するとともに、現状の水需要に合わせて口径を縮径」した現場

結果、いずれの現場においても水圧の値及び変動に大きな差異は見られず、当該工事においてはスリム化による影響は限定的であることを確認しました。(図7)

以上の結果から、管網の再構築手法の1つとして、「管網のスリム化」の可能性を示すことができました。

図6 計測地点と管路図(A現場)

図6 計測地点と管路図(A現場)

図7 消火栓1の水圧(工事前後)

図7 消火栓1の水圧(工事前後)

関連資料

水道管路の維持管理業務の現状と改善策に関する読本

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