我が国の水道事業は、人口減少に伴う水需要の減少や給水収益の悪化、高度経済成長期に整備された多くの管路や施設の老朽化及び水道に携わる職員数の減少といった課題をかかえています。
給水人口の減少や節水機器の普及により、水需要が減少していく中で、水道施設の再構築を行うにあたり、更新に伴う統廃合による施設運用の効率化や施設能力の適正化を行う必要があり、基幹管路及び配水支管の再構築の手法を確立することが必要です。一方、水需要の減少により、現状の管路のままでは、滞留水の発生に伴う残留塩素濃度の低下及び夾雑物の堆積による濁水の発生、人口偏在による水圧の不均衡が生じるため、適切な形態や口径の管網に再構築する必要がありますが、予算等の制約により、長期間にわたり既存管路を使用しながら、更新に合わせて再構築することとなり、より効率的な管網管理手法が求められています。そのため、公益財団法人水道技術研究センターでは、平成29年度~平成31年度末までの3か年にわたり、このような課題を解決すべく、産官学による共同研究として「人口減少社会における水道管路システムの再構築及び管理向上策に関する研究」(Pipe ΣProject)を実施しました。
「水道界全員の英知により、管路再構築と維持管理手法の確立を成し遂げる」という想いから総和を意味する「シグマ」を引用し、 英知の総和を図ることで実りあるプロジェクト成果を収める願いを込めて、「Pipe Σ(パイプシグマ)」としました。
水道事業が施設統廃合によって得られる効果等の基礎調査を水道事業体に対して行い、その結果から施設統廃合に伴う基幹管路の再構築のあり方、その計画手法について研究しました。さらに、施設統廃合に伴う基幹管路の再構築にあたって直面する技術課題と解決策についても調査しました。水道事業体が、これらの研究成果を容易に活用できるように施設統廃合の計画業務を支援するツールを作成しました。
水需要の減少により生じる滞留水の発生に伴う残留塩素濃度の低下、夾雑物の堆積による濁水の発生、また、人口偏在により生じる水圧の不均衡などを踏まえ、将来の水需要や変動により求められる適正な口径に対して、現状の管網を再構築する手法について検討しました。さらに、人口減少と原単位の変化に加え、地域的な人口偏在や消火用水量の影響も考慮した引出水量の設定方法及び配水支管における余裕度を検討しました。再構築の計画期間や将来の人口推計などの計算条件から水需要量を推定し、口径を検討する手法や、有効水頭(水圧)、残留塩素濃度、流速の評価指標や事業費などから、再構築プロセスの評価方法についてまとめました。
水道利用者である需要者の人口減少、さらには供給側となる水道事業体職員数の減少に対応した管網管理を実現するため、進展が著しい情報通信技術(以下、ICTという。)を活用した、効率的かつ効果的な管網管理に向けた研究を実施しました。収集して得られるデータから管網管理における改善点を分析し、その解決手法の検討を実施しました。また、求められている技術の調査を行い、情報媒体から目的に合致した企業の技術情報などを集約し、データベース化するとともに検索可能なツールを作成しました。
基幹管路小委員会 | 管路整備小委員会 | 管網管理小委員会 | |
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学識者※委員長 | 東京都立大学 准教授 荒井 康裕※ | 名古屋大学 准教授 平山 修久※ | 鳥取大学 准教授 増田 貴則※ 電気通信大学 教授 金子 修 |
事業体 | 大阪広域水道企業団、川崎市上下水道局、京都市上下水道局、 八戸圏域水道企業団、広島市水道局 | 神戸市水道局、さいたま市水道局、豊中市上下水道局、 郡山市上下水道局、横浜市水道局 | 大津市企業局、札幌市水道局、 千葉県水道局、東京都水道局、 福岡市水道局、横須賀市上下水道局 |
企業 | ㈱クボタ、㈱栗本鐵工所、 JFEエンジニアリング㈱、 大成機工㈱、日本水工設計㈱、 ㈱日立製作所、㈱フソウ |
オリジナル設計㈱、㈱クボタ、 ㈱栗本鐵工所、コスモ工機㈱、 ㈱ジオプラン・ナムテック、 ㈱清水合金製作所、日本鋳鉄管㈱ |
㈱清水合金製作所、水ing㈱、 東芝インフラシステムズ㈱、 東洋計器㈱、㈱日立製作所、 日之出水道機器㈱、フジテコム㈱ |
(公財)水道技術研究センター |