研究概要
厚生労働科学研究費補助金による研究
1.基幹水道施設の機能診断手法に関する研究
水道施設の多くは、1960年代から1970年代にかけて急速に整備が進められました。このときに集中的に整備された多くの施設は間もなく40~50年以上が経過しています。これらの老朽化しつつある施設を更新などによっていかに適切に機能の回復・改善を図るかは、日本の水道施設において大きな課題となっています。
このような背景から、水道技術研究センターでは、水道事業体を支援すべく管路や浄水施設等の水道施設の診断手法の開発を行ってきましたが、従来の診断手法は、比較的実施難度が高く、また個別の水道施設ごとの評価手法のみでした。そこで、本研究では技術者や技術力が不足しがちな小規模都市においても簡便かつ合理的な施設評価を可能とする水道施設機能診断手法を開発しました。(図1)本手法は、日常管理から得られるデータや経験を基に実施するものであり、特別な調査や高度な技術的計算を必要とせず、水道職員自身の手で簡便に実施できることが大きな特徴です。
図1 機能診断の手順
2.施設更新の優先度を考慮した地震による管路被害の予測等
兵庫県南部地震における水道施設の甚大な被害を契機に、水道施設における地震対策の重要性が再認識されることとなりましたが、この地震以後も各地で地震が頻発しており、その重要性はますます高まっています。本研究では、近年の地震(兵庫県南部地震・新潟県中越地震・新潟県中越沖地震)による管路被害を解析して、新たな地震被害予測手法を開発することを目的としました。
新たな地震被害予測手法を構築するに当たり、標準被害率に各要因の補正係数(表1)及び管路延長を掛けることによって被害件数を予測する手法を採用することとしました。
標準被害率算出式
地震による管路被害予測式
表1 予測式に用いる補正係数
共同研究費による研究(1)
1-1.管路の機能劣化予測に関する研究
現在の水道界における最も重要な課題は管路の更新であると言われています。その更新計画の立案に必要となる管路の老朽度を予測する手法は、全ての管種を網羅した手法が一般化されていないこともあり、管路の老朽度を評価する有力なツールとしては用いられていないのが現状でです。
本研究では、管路の老朽度の定量的な診断・評価を可能とすることを目的とし、アンケート調査で得られた過去50年分の漏水事故データから導き出した事故率曲線(図2)に基づき、50年を超える管路における事故率の推定式(式①)の構築を行いました。
図2 機能劣化予測式(小口径の場合)
1-2.管路施設のハザードマップ作成に関する研究
現状、ハザードマップは地域防災計画の一環として地震の震度分布や津波発生状況等の表示は一般化しているものの、水道分野での作成手法は一般化されておらず、ハザードマップを作成して更新計画の立案や市民への説明などに用いている水道事業体は一部に止まっています。
本研究では、水道事業体における更新計画の立案や市民への説明などに寄与できる水道管路施設ハザードマップの作成手法の構築に関する研究を行い、アンケート調査を参考に管路事故率、断水人口、事故リスク(事故率×断水人口)の3種類についてシステム開発を行いました。(図3)開発したシステムを2つのケーススタディ事業体に適用し、管路更新の有無により事故率や事故リスクが変化する様子からハザードマップの妥当性を検証しました。
図3 ハザードマップシステム
共同研究費による研究(2)
2-1.管路施設のライフサイクルアセスメント(LCA)に関する研究
水道事業は、水循環の一部を利用しながら、国民生活の維持や経済活動基盤として重要な役割を担っています。一方、今日の水道事業は、地球温暖化に代表される地球環境問題の影響による気候変動などに対し、環境保全に配慮しつつ、安全・安心な水を持続的に安定供給していくことを強く求められています。
本研究では、図4に示す研究フローに基づき、今後地球レベルでの設定が見込まれる環境負荷低減目標を達成するための準備の推進を研究テーマとし、水道施設の運転のみならず、施設建設・更新も考慮した環境負荷の現状及び立案した環境対策を評価するためのツールとして利用できる「水道版LCA手法」を開発しました。
図4 LCAに関する研究フロー
2-2.事業体及び住民に対する事業・更新PR手法に関する研究
水道事業は、受益者負担を原則として、「水道料金」で維持運営されている公益事業であり、水道サービスの主たる顧客は、その地域住民です。この住民に対して、水道施設の老朽度や耐震性等の定量的な評価、常に蛇口から飲める水を供給するための水道関係者の日常的な努力、水道事業の経営の状況等を正しくわかり易く伝えることで、住民の理解と協力を得て、安定した水道事業を継続していくことが重要です。
本研究では、水道事業体・インフラ系企業・広告代理店等に、アンケート調査やヒアリング調査を実施した。その結果、これまで水道事業体ではPRしにくかった「老朽管更新」をテーマとし、クロスメディア手法によるWEB誘導型のPR手法の効果について実験的検証を行いました。(図5・図6)
図5 PR効果検証実験のフロー
図6 WEBサイトのトップ画面